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日本ワイン、葡萄不足が進行
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国際的な評価が高まり、出荷量が年々増加を続ける日本ワイン。
伸び続ける需要に対し、原材料となる国産葡萄の供給が追い付かないという事態が進行している。
メルシャンやサッポロビールをはじめ、日本のワイン大手メーカー各社は、畑づくりから醸造方法まで、問題点を洗い出して生産方法を改善しさらに技術革新をもって品質を高めるという日本の製造業のお家芸をここでも実施している。
葡萄の果実の成分や成熟を揃えるため、植栽の間隔を一定にしつつ樹木の大きさをそろえる細かな管理や、できるだけ小さなタンクで醸造し一定の熟度に達したものから小分けに醸造する手法、また優秀な形質を持つ葡萄をクローン栽培するバイオ技術など、各社がそれぞれのノウハウを培い、日本ワインの品質を高めてきた。
ワイン評論家の山本博氏は「シャルドネやメルローなど欧州系の品種の出来では世界に引けを取らなくなった」と語り、アメリカやアルゼンチン、南アフリカなどのワイン業界における「新世界」の国々に品質の面で肩を並べるレベルに達してきたことを示唆した。
一方、日本ワインの展望には、陰もある。
ワイン用の葡萄の供給不足が深刻化しているという現実だ。
原因のひとつに、農家の高齢化が挙げられている。
国内ワイナリーの多くは、自社畑からの収穫では足りず、契約農家に栽培してもらったり地域の農業協同組合から果実を購入している。
日本ワインの消費量が毎年数%のペースで伸び続ける一方、重労働に耐えられずに葡萄の生産をやめる農家が増えている。
山梨県によると、同県内の葡萄農家は2005年には8,863戸あったが、2010年には7,884戸に減少した。
農政部は「高齢化で減っているのは間違いない」としている。
県内で葡萄農園を営む70歳代の男性は、後継ぎがいないことに加え、2020年の東京五輪を控えた建設ラッシュでアルバイトの人材が建設現場に流れ、農作業での人員確保が難しくなっている状況に、離農を本気で考えているという。
さらに、2018年秋に本格施行される新たなワインの表示ルールが、葡萄不足問題の深刻化をより強めそうだ。
「勝沼ワイン」「十勝ワイン」のように、ラベルで地名を名乗るには、その地で収穫した葡萄を85%以上使用して醸造しなければならない。
表示ルールを厳格化することでブランドを構築し、日本ワインも「クールジャパン」のひとつとして輸出を後押しすることを狙って、国税庁が後押ししている形だ。
しかし、現状の葡萄不足が影響し、銘柄ワインの生産本数を大幅に引き下げ、結果として日本ワインのブランド浸透の障害になるのではないかとの指摘もあり、大手ワイナリーも危機感を募らせている。
こうした流れから、大手ワイナリー各社は、自社畑の拡大に向けて動き始めた。
メルシャンは、2027年までに新たに60ヘクタールを開墾し、葡萄の木を植栽する目標を立て、2015年夏に長野県塩尻市内に7ヘクタールの農地を賃借した。
サントリーワインインターナショナルの山崎雄嗣社長は「耕作放棄地などでの葡萄農地の開拓を進めたい」と語る。
25ヘクタールある山梨県甲斐市の登美の丘ワイナリーの自社畑で約1割を占める甲州種の栽培面積を3~4年で3~4倍ら増やすという。
サッポロビール勝沼ワイナリーも「農園拡大を視野に入れる」と語る。
一方、「日本が世界的な産地と認められるには、現在の10倍以上の葡萄生産量がなければ話にならない」とメルシャンの田村隆幸生産企画グループ課長が語るとおり、国際競争力のあるブランドを目指すには、現状でも既に生産量が不足している。
品質では世界に認められながらも、高齢化問題で供給力が脆弱な日本ワイン。
日本の製造業が抱える構造問題が、ここにも表れている。
2016/06/07 日経産業新聞より引用。
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葡萄の生産量が追い付いていない、とだけ聞くと「そんなに日本ワインの消費量が上がっているのか~」と良いニュースとして聞いてしまいますが、実は生産者が減少しているという大変な問題を抱えているのですね……。
地名の表示ルールも、ブランド力のためには必要と思えますが、生産が追い付かないという事態においては足かせになりかねないというジレンマ。
今後、生産者の育成が成功するかどうかが、重要な鍵になるようですね……。