知ってる?ワイン話
商店街の中で地ワインづくり「このはな」ワイナリー
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秋田の都市型ワイナリー「このはな」
地元商店街がシャッター通りと化したことを嘆く声は、首都圏にも地方にも少なくない。
再開発や、空き店舗の場所を駐車場に作り替えて土地を有効活用したりなど、再活性化を試みる動きは様々ある中、商店街活性化におけるひとつのヒントになりうるワイナリーが注目を集めている。
秋田県鹿角市の「このはな」ワイナリーは、商店街の空き店舗を利用してワインを醸造している世界でも珍しい都市型ワイナリーだ。
鹿角市の代表駅、JR花輪線「鹿角花輪」駅前の商店街もまた、シャッターが目立つ。
三ケ田一彌氏・美香子氏夫妻が運営する「このはな」は、パチンコ店だった空き店舗を醸造所として2011年にスタートした。
「ワイナリーを始めるにあたり、『(空き店舗には)お店が入るのが良いのでしょうけど、工場をやってもいいですか?ワインだから、うるさくもしないし汚くもしません』と周囲に説明して理解を得ました」と三ケ田一彌氏は開店時を振り返った。
醸造所にした空き店舗は、もともとは三ケ田氏の祖父が経営していた青果店だったのが、バブル期にパチンコ店に貸すことになり、その後、三ケ田氏が相続した場所だという。
隣接する銀行空き店舗の金庫をワイン貯蔵所として使用しているのもユニークだ。
もともとはパソコン教室とインターネットショップを運営していた三ケ田氏がワインの醸造に乗り出したきっかけのひとつに、「日本ワイン」の流行があった。
日本のワインには、海外から輸入した濃縮ぶどう果汁を日本国内の工場で加工して「国産ワイン」としているものが多い。
一方、近年、日本で栽培された葡萄のみを使用し日本で醸造したものを「日本ワイン」と呼称する動きと、また消費者も「日本ワイン」を選ぶ傾向があることを知った三ケ田氏は、地元の葡萄畑に着目し、地ワイン醸造への構想を練るようになった。
秋田の地で、秋田の葡萄を使ったワインを造れないだろうか?
「このはな」ワイナリーから約12kmほどの距離に位置する鹿角郡小坂町の葡萄畑「鴇(ときと)」。
ここで収穫された葡萄から、「このはな」ワイナリーの主力商品である「鴇」シリーズが醸造されている。
鴇は、1988年に鹿角郡小坂町が「ブドウ栽培振興事業」を立ち上げたことに伴って葡萄の栽培が始められた。
当初は、小坂町近隣にワイナリーを造り地域のワイン事業を発展させる構想が立てられていたが、景気の悪化とともに事業規模が縮小。
「このはな」ワイナリー開設時には、岩手県や富山県など他県のワイナリーへの出荷が大半を占め、さらには出荷制限が課せられるようになり、栽培農家が当初の半数以下に減少している状況だった。
鹿角郡小坂町の葡萄畑「鴇」(画像提供:株式会社MKpaso)
地場産ワインを造るにあたり、他社の醸造所などへの勤務経験のない三ケ田氏は、1年半をかけて勉強・準備を重ねた。
ワイン醸造所の用意がネックであったが、それもまた商店街の空き店舗を使用することで解決した。
県の醸造試験場とも密な繋がりを持ち、商品開発にたゆまぬ努力を重ねてもいる。
葡萄の実がつきはじめた鴇の葡萄畑(画像提供:株式会社MKpaso)
「第3セクターの形式や、観光地化を望んでいる訳ではないんです。結婚式場を兼ねたワイナリーや、道の駅のような販売施設も兼ねたワイナリーなどもありますが、そうした運営はどうしても人手や資本が必要になる。補助金を使わず、自分でできる範囲でやっていきたいんです」と語る通り、「このはな」ワイナリーは三ケ田氏夫妻を含めた3名で切り盛りされている。
破砕から圧搾、発酵、瓶詰め、コルク打ちまで一貫して自社工場で生産し、作業の大半は手作業。
年間の生産量は1万本程度という。
「むしろこれからだと思っています」創設者の三ケ田氏が語る、ワインがつなげる人の輪
現在、「このはな」ワイナリーの商品は都内のレストランでも扱われるようになり、確実にファンが増え続けている。
2016年6月初旬に行われた「第2回 日本ワインMATSURI」に出展した際は、新規注文の獲得とともに、いろいろな声を聴くことができたという。
また、都市型ワイナリーの事例として、国内外の視察も多い。
ロシアはウラジオストックからも見学者が訪れたという。
三ケ田氏は「農業をやっていると、夏場は仕事が多いのですが、冬は激減します。その間、首都圏に仕事を求めるケースもあるのですが、ワイン醸造はその点とても良いという意見を聞きます。自分たちで商品化作業をすることで、冬場にも仕事ができますから」と、農業に携わる人々の視点を解説しつつ、「また、ワインを造ることで、賑やかな場所に接する機会が増えました。そうしたきっかけで、いろいろな引き合いが増えるというのも良い点です」とも語った。
さらに、「このはな」ワイナリーへの見学者が商店街の近隣店舗に立ち寄ることが増えているのも、商店街にとって喜ばしいアクションとなっている。
国内の都市型ワイナリーは、「このはな」ワイナリー以外には、大阪の「島之内フジマル醸造所」が存在するほか、福島県伊達市でも計画中だ。
日本ワインの需要が高まるにつれ、都市型ワイナリーで地場産ワインを造る「このはな」ワイナリーの成功例はさらなる注目を集めることが予想される。
三ケ田氏に、ワイナリー開設にあたって一番苦労したことについて質問した。
「むしろこれからだと思っています。やっと首都圏で扱ってもらえるようになったばかり。苦労はこれからじゃないでしょうか」
実はアルコールを飲めないという三ケ田一彌氏。
にも関わらずワイン業界に飛び込んだ、その勇気と好奇心、そして、だからこその既成概念のなさと謙虚さが、「このはな」ワイナリーの成功につながっているのかもしれない。
取材協力・画像提供:ワイナリー このはな(株式会社MKpaso)
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日本ワイン ワイナリーこのはな
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