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日本ワイン表記に新ルール、産地を明確化
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2016年7月29日発行の日経産業新聞に、2018年秋に導入予定の日本ワインを巡る新たなルールについて、明治学院大学教授 蛯原健介氏へのインタビュー記事が掲載された。
2018年秋、国産ワインの表示に関し、国産の葡萄を原料に国内で醸造されたワインだけを「日本ワイン」と名乗れるようにするという新たなルールの導入が予定されている。
EU法や公法を専門とし、フランスのワイン法に関する日本国内の第一人者であり、また国際ワイン法学理事を務める蛯原健介教授によると、新ルールは「事実上海外のワイン法に当たるものと言えるだろう」とのこと。
『酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律』に基づき国税庁が定めたものであり、違反時には酒類製造免許の剥奪などの罰則もある制度となる。
新ルールの大きなポイントとして、「日本ワイン」の定義と表示の明確化がある。
今までは、輸入した葡萄果汁を日本で醸造したものも含め「国産ワイン」としていたが、新基準ではさらに、国内で栽培した葡萄果実を国内で醸造したものを「日本ワイン」と表記することになり、両者の違いがわかりやすくなるという。
さらに、国内のどの産地の葡萄を使用したのかを表記することなども定められる。
例えば、長野県産葡萄を85%以上使用し、長野県で醸造したワインは、「長野ワイン」「長野ロゼ」などと地名を冠したワインとして販売可能となる。
一方、長野県産葡萄を、長野県外で醸造した場合は、「長野ナイアガラ」「長野県産ぶどう使用ワイン」「長野収穫ブドウ」などのように、使用した葡萄についてのみ地名表記できる。
蛯原教授によれば、こうしたルールが制定されると、既存の商品も、名称の変更が必要になるケースが出てくる可能性が高いという。
「大規模なワインメーカーは畑が広範囲に点在していたり、他県産のブドウを買い入れて醸造したりすることも多いため、既存の商品でも名称変更を迫られる可能性がある。ワイン用のブドウを栽培している農家に影響が及ぶことも考えられる」
と、市場での混乱の予想について言及した。
さらに、「日本の地名表記の新ルールは、他国と比較してもやや厳しすぎる印象がある」と海外のワイン法との比較に関する見解を示した。
「新基準は醸造地を都道府県という狭い行政単位で縛っているが、海外では例外も多い。
例えば、フランスではボージョレ地方とブルゴーニュ地方は離れているが、ボージョレで収穫したブドウを使ってブルゴーニュで醸造しても、『ボージョレ』を名乗ることができる。
ネゴシアンと呼ばれるワイン商がブドウを買い付けてワインを造ることが一般的になっているため、制度に柔軟性を持たせているのだろう」
今回の新基準は、粗悪品の流通を防ぐことが目的のひとつとされている。
「今から1世紀ほど前、フランスでは産地偽装などが横行して問題となった。
産地や原材料の信頼性を確保しようとして導入されたのがワイン法だ」
と蛯原教授はワイン法の成り立ちについて解説した。
「日本ではまた悪質な産地偽装などの事例は出ていない。
だが、多くの食品や酒類のなかでも、ワインはとりわけ産地や原材料が品質面で重視されている。
国内のワイン産業やワイン文化を発展させるうえで、きちんとした表示基準の導入が不可欠だという声が高まっていた。
日本も制度面でようやく海外のワイン生産国に並ぶことができたといえる」
また、新ルールは日本のワイン産業の発展に寄与するかという質問に対し、
「新表示基準はあくまでワインの『表示』についてのルールであって、海外のワイン法のように生産方法や使用品種などについてまで規定するものではない」
と、新ルールでは不十分な点を指摘した。
「一方で、日本随一のワインの生産地である山梨県は、今回の新表示基準の導入以前から、『地理的表示(GI)』というより厳格なルールを導入している。
これは『山梨』の名称を名乗るには、使用したブドウの品種や、成分の細かな分析値が基準に適合していることに加え、審査員が飲んで確かめる審査に合格しなければならないというものだ。
一定の品質を保証するために、作り方や原料を規定する仕組みで、海外のワイン法に近い仕組みとなる」
蛯原教授の解説によれば、ワインの品質の保証を多角的に規定・審査するよう定めることが、国内ワイン産業の発展につながるという。
「新表示基準の導入はワインに関するルールのスタートラインにすぎない」
と、蛯原教授はあくまでもこれからであるということを強調する。
「新たな表示基準を導入した結果、産地や原料が明確になり、各地のワインの個性が意識されるようになるのは歓迎すべきことだ。
ただ、ワイン造りが地名に縛られすぎる懸念も生じかねない。
それぞれの地域のブランド価値の向上と並行して、個々の生産者の技術力が向上し、ワイナリーなど生産者の名前をもっと押し出す動きが出てくることに期待したい」
新ルールの制定により、日本ワインのブランド価値の向上が期待できる一方、今後はさらなるワイン業界の発展に向けてルールを精査していく必要があることが、識者によって示された。
まずは、少しずつ浸透してきていた「日本ワイン」の定義が、2018年秋の新表示基準施行で一般化されることを期待したい。
2016/07/29 日経産業新聞より引用。
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日本の固有品種で造られるワインも、他国のワインとは違う独特の美味しさがあるので、新基準施行をきっかけとして、ぜひ多くの方に日本ワインに親しんでいただきたいです。
一方、葡萄不足が懸念されている国内のワイン産業事情も鑑みると、関係者としては複雑なところもあるのではないかと想像します。
生産量の増加とブランド力の向上の両立に向けて、新たな技術革新が求められているのかもしれません……。