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【月の港に続く道 第3回】陥りがちな落とし穴「ワインと先入観」~ワインLOVERのストレッチ~
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『「ビズ・ワイン」革命始まる』著者の今西正典氏による、生涯続くワインライフを楽しむためのスペシャルコラム『月の港に続く道』第3回。
今回は、ワイン初心者が陥りがちな「先入観」という落とし穴をピックアップ。
「月の港」ボルドーへ続く道を、楽しみながら歩いてみましょう。
第3回 ワインと先入観~ワインLOVERのストレッチ~
ワイン初心者が陥りがちな「先入観」という落とし穴
ワインを味わう時は、先入観を捨ててニュートラルな状態で感覚を研ぎすますのが良いとされます。
賛成しますが、非常に難しいことです。
ワイン会や勉強会で、複数の人数でブラインド・ティスティングをする場合があります。
例えば、白ワインのティスティングで、最初に発表した人が「スッキリした柑橘系の白ワインの中にかすかにペトロ香(石油香)を感じた」と言ったとします。
石油香はリースリング品種特有の熟成香とも言われます。
そうすると、途端に他の参加者もペトロ香を追うようになり、多くの方が同意するようになります。
その傾向は、ティスティングワインがリースリングであった場合も違う品種であった場合も同じような傾向で表れます。
他人の意見を否定するだけの自信がなく不安を感じたことによって、脳が過剰にペトロ香を追うようになり錯覚を起こす場合があるようです。
私もティスティングにおいて、他人の意見に引きずられたと思うことが多々あります。
先人の意見が完全に先入観になっています。
ワインの経験とともに気づかぬ間につくりあげられていく先入観
また、ワインに慣れ親しんでいく中で、身につけたワインのスキルや知識が先入観をつくっていくこともあります。
ワインボトルのラベルを解読できるようになると、生産国、品種、年代でおおよその味わいが推測できるようなります。
これも、いい意味で先入観となります。
ワインの色調に関する経験値も先入観になります。
アメリカ品種のジンファンデルの場合、ワイングラスの底が完全に見えない濃いガーネット色のワインを前にすると、酸とタンニンが際立ったフルボディを予測し身構えます。
しかしながら、飲むと案外やさしくちょっと気が抜けた感じがします。
逆に、イタリア北部の代表品種、ネッピオーロのバローロの場合、見た目は中程度のルビー色でミディアムボディのガメイやピノノワールかなと思いがちですが、少し口にするだけで姿に似合わない尖った酸と強いタンニンに驚かされます。
ワインのティスティングスキルには幾つかの方法論があります。
まず品種を想定して、そこから風味や味わいの筋道を立てていくとの手法もありますが、現在主流なのは「ティスティングの最中にブドウ品種のことは考えるべきでない」という考え方です。
まずはジグソーパズルのように、色調、香り、酸味やタンニンなどのさまざまな評価のピースを集め、多くのピースを組み合わせて全体像を俯瞰してみて、結果としてジグソーパズルの絵がどの品種を示しているのかを考えてみるといったプロセスです。
ワインに対する知識と経験を積むにつれ、それなりに先入観を持つ事柄も多くなっていくでしょう。
しかし先入観はある意味知識の裏返しでもあり、必ずしも否定する必要はありません。
むしろ、先入観を恐れて、あまり自分の率直な意見や感想を述べないという方が、ワイン会の面白みを損ねたりします。
先入観が覆された驚きを大切に……それは、ワインスキルのレベルアップにつながる経験
ワインの魅力は、同じテーブルを囲む仲間が自分の感覚で自由にフリートークできる点にもあります。
往々にして、正解はひとつではない場合があります。
熟成したピノノワールは、枯れたバラや乾燥イチジク、紅茶、燻製肉のニュアンスと良く言われますが、カツオ出汁や梅干、鉛筆の芯と言ったおよそ日本人にしか感じられない感覚で表現をしたとしても、全く間違いではありません。
人間の感動は驚きの中に生まれます。
成長は失敗や間違いを通して育まれます。
重要なのは、先入観を覆させられた時の驚きや失敗の経験は非常に貴重であり、ありがたい瞬間であると肯定的に考えることです。
そして、その失敗の理由が腑に落ちた時にワインスキルが一段レベルアップすることになります。
今日もワインに関するよもやま話をしながら、月の港に続く道を歩むことにしましょう。
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MBA経営学修士でありアジア各地にて貿易事業を展開するビジネスパーソン。
WSET LEVEL 3 AWARD IN WINES、日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、J.S.Aワイン検定講師の資格を持ち、ワインをビジネスに活用する「ビズ・ワイン」を提唱。
著書に『「ビズ・ワイン」革命始まる』を持つ。