もう迷わない!プロが実践するワイン選びのコツ
第1回 毎日が楽しくなる!ワイン選びの世界へようこそ
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[最終更新日]
ワインショップやレストランのワインリストを見て、その種類の多さに圧倒された経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
赤ワインや白ワイン、スパークリングワインなどワインのタイプだけでも数種類が存在し、さらには原料となる葡萄の品種、また生産国による特色、造り手による個性、年度による影響……数多くの要素が、ワインの世界を非常に奥深いものにしています。
そんな奥深い世界の中で1本のワインを選ぶということは、とても難しいと感じるかもしれません。
知識も経験もないワイン初心者がワインを選ぶのは無謀……いえ、必ずしもそうではありません!
スペシャルワインコラム「もう迷わない!プロが実践するワイン選びのコツ」は、ワイン初心者が目的にかなったワインを楽しく選べるようになる実践的な知識を、ワインショップオーナーが丁寧に解説するコンテンツです。
執筆は、ワインショップ「VINORAK」を経営する竹村栄司氏。
ワインの輸入商社でのバイヤーとして実績を積み、世界中のワインに触れてきたワインのプロとしての豊富な経験から、すぐに実践できるワイン選びのコツを解説します。
第1回は、ワイン初心者の肩の力を抜いてくれる、著者ご自身のワイン選びにおける劇的な体験のご紹介です。
ぜひ、リラックスしながら楽しくお読みください。
もう迷わない!プロが実践するワイン選びのコツ -第1回-
毎日が楽しくなる!ワイン選びの世界へようこそ
ワイン選びは奥が深い、でも、難しい。
世界中でワインは造られていて、日本にも星の数ほどのワインが輸入されています。
たくさんの選択肢があることは素晴らしいことですが、同時にその中から選ばなければいけないという課題も生まれます。
膨大なワインの選択肢から、食事のシーンや一緒に飲む相手を考えて「最高の」ワインを選ぶのは、電話帳のごとく分厚いワインリストを抱えるフレンチの名店トゥールダルジャンのシェフソムリエが大統領のためにワインを選ぶのと同じ、いえそれ以上の至難の技だと言っても過言ではありません。
それはそれは、私たちの頭を悩ませるものです。
ではどうすれば良いのでしょうか。
「初心者のためのワイン入門」といった類の本を買わなければいけないのでしょうか。
いきなり最短距離の正解を言ってしまうと、実は最も賢く手っ取り早い方法は、プロに任せてしまうことです。
ワインショップのスタッフにはレストランのソムリエと同等の知識・ノウハウを持った人が多いです。
彼らに、あなたがワインを選ぶ目的や自分の好み、予算を伝えれば、的確なチョイスをしてくれることでしょう。
でも、自分でワインを選べるようになりたい。そう思いませんか?
少なくとも「ワイン選びのコツ」と書かれたこのコラムに来てくださったのですから、きっとあなたはそう思っているはず。
あなたがワインを贈る相手のことを、一番よく知っているのはあなたです。
あなたが今夜食べるすき焼きの味付けは、あなたが一番よく知っています。
ワインのプロとはいえ、あなた自身のことやご家族のこと、プレゼントする相手のことまで詳しく知っているわけではありません。
あなたがワインを選べるようになると、「的確」ではなく「最高」のチョイスになります。
「でもそんなこと言ったって、ワインを選べるようになるには知識が必要なんでしょう?」
「ワインに詳しい人に、間違ったワインをあげたら恥ずかしいよ」
と、尻込みしてしまうかもしれません。
ですが、全く心配する必要はありません。
その理由をお話ししたいと思います。
経験豊富なプロではないからこそ選べたボルドーワイン
少し私自身の話になります。
私は現在、フランスのワイングラスを輸入する代理店とオンラインのワインショップを経営しています。
といってもまだ開業したばかりのピヨピヨ経営者ですが、それ以前はワインの輸入商社でバイヤーとして勤務していました。
毎年フランスやドイツで行われる国際展示会に出向いては、世界中のワインを試飲し、日本未発売の新しいワインの開発に勤しんでいました。
さてバイヤーになる前の私は、決してワインにものすごく詳しかったり、テイスティング能力がずば抜けていたりしたわけではありません。
営業成績も普通、テイスティング試験の結果も普通。
いたって普通のセールスマンが、何の因果かバイヤーになってしまったのです(おそらく人手不足だったのでしょう笑)。
それも、フランスのボルドー地方という、世界で最も偉大で権威あるワイン産地の担当になってしまいました。
当時の私は、それはそれは恐ろしく緊張していました。
ボルドーワインに詳しいわけでもありません、英語も話せません。
展示会とか商談とか絶対無理!と心の底から怯えていました。
そして今だから言えることですが、実は「ボルドーワインってちょっと苦手なんだよな……」と思っていました。
ボルドーは、非常に長命な、タンニンのしっかりとした赤ワインで有名です。
若いときに飲むと渋みが強いのですが、熟成するとこれが「こなれて」、ほんとうに滑らかなシルクのような口当たりになり、風味も複雑になり、とても美味しいワインに変貌します。
しかし当時の私はそれを知らず、若いボルドーワインを飲んでは「苦手だなー」と渋い顔をしていました。
そんな時に、1本のボルドーワインに出会います。
そのワインは、まだデビューしたばかりの若いワイナリーが造った赤ワインです。
若いワイナリーですから、早く飲んでもらって評価される必要があります。
熟成して、ワインがこなれるのを待っている余裕はありませんからね。
彼らのワインからは甘く香ばしい香りがして、しかもブラックチェリーのようなジューシーな果実の風味がありました。
当時のボルドーワインの試飲会では、まさに「異色」と言えるほど、分かりやすくフレンドリーな味だったのです。
しかも価格もすごくお手頃で、確か希望小売で1,400円程度だったかと記憶しています。
私は一瞬で、このワインの虜になりました。
「これはもう、あるだけ買いましょう!」と、普段は蛇に睨まれたカエルのような私が突如として鼻息荒く主張しました。
ところが周りの先輩方は難色を示しました。
「これはちょっと受けを狙いすぎてるんじゃないか?」
「正統派のボルドーワインを好きなお客様が喜ぶだろうか」とのこと。
ううむ、確かにその通り。
私が無知ゆえに、ただ純粋に自分の好みだというだけなのが、完全に見透かされていました。
しかし私は諦めきれませんでした。
バイヤーとして初めて、自分が心から美味しいと思えたワイン(それまで試飲したワインには心から謝ります)。
なんとか買わせてほしいと上司にお願いすると、「そこまで言うならやってみようじゃないか」とオッケーをもらえたのです。
とりあえずお試し程度の数を輸入して、試飲会で評判を見てみましょう、ということになりました。
さて、無事にそのワインは輸入され、試飲会に出品しました。
するとどうでしょう、なんと試飲会でそのワインは大好評!
「ボルドーってこんな美味しいの?」
「今まで苦手だと思ってたけど、このボルドーは好きだ!」
と、私と全く同じ意見を持ったお客様から絶賛してもらい、瞬く間に入荷数量は完売。
その後追加発注をして、ワイナリーの在庫も完売するほどの人気アイテムになりました。
それまでバイヤーという仕事に対して後ろ向きだった私が、初めて前向きになれた瞬間でした。
これを機にバイヤーとしての自覚が目覚め、ボルドーワインについての勉強を本格的に始めました(そして自分の無知さに愕然とし反省しました)。
私はボルドーワインに対する知識も経験もありませんでした。
ですがそんな私だからこそ、そのワインを選ぶことができたとも言えます。
経験豊富なテイスターから見たら「ウケ狙い」と思われるようなワインだったのかもしれません。
でもそのワインは、少なくとも私と、私と同じようにボルドーワインに対する苦手意識を持っていたお客様の心を掴んだのです。
この事実が、私にとっての「ワイン選び」の原点になっています。
「生産地やブドウ品種の知識がなくても、人を感動させられるワインを選ぶことができる」
そう信じています。
もちろんプロとして、その後私は知識と経験を積み重ね、より精度の高いワイン選びができるよう努力してきました。
このコラムでも、ワイン選びのプロとして私が何を見ているかというお話しをしていきます。
ですがその前に、最も大事なことをお伝えしたかったので、今回はこのエピソードをご紹介させていただきました。
ワイン初心者こそ、のびのびと自由に、多種多様なワインを楽しんでほしい
本当は、コツも何もなくたって、ワインは選べます。
ですが「今度はなにを飲もうかな」とわくわくしながらショップを眺めたり、「こないだ買ったワイン、きっとこんな味だろうな」と想像したりできれば、あなたの毎日がきっと楽しくなるんじゃないでしょうか。
みんなが肩肘張らず、世界中からやってきた多種多様なワインを、心から楽しめるようになってほしい。
そう願い、筆を執ることにしました。
次回から具体的なワインの選び方をお話ししますので、お楽しみに!
ワイン選びの世界へようこそ!
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株式会社ワインクレディブル 代表取締役。
JSA認定ソムリエ、WSET Level3 Award in Wine & Sakeの資格を所有。
ワイン専門商社にてチーフバイヤーとしてフランスワイン輸入に携わってきた経験を活かし、オンラインワインショップ「VINORAK」、ワイングラス「Sydonios」販売代理店を運営。
InstagramやYoutube、noteにてワインに関する様々なトピックを解説している。