月の港に続く道
【月の港に続く道 第7回】「自然派ワイン」のデメリットや分類、そして本質を正しく知ろう~ワイン・オシャレ考~
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『「ビズ・ワイン」革命始まる』著者の今西正典氏による、生涯続くワインライフを楽しむためのスペシャルコラム『月の港に続く道』第7回。
今回は、SDGs提唱の影響もあり人気が高まる「自然派ワイン」について考えます。
環境や身体に優しいイメージの「自然派ワイン」、実はその分野内でも様々な手法や考え方が存在しています。
また、ワインの劣化を防ぐ添加物は、本当に不要なものなのでしょうか?
自然派ワインの問題点にもあえて目を向け、本質に迫ります。
「月の港」ボルドーへ続く道を、楽しみながら歩いてみましょう。
第7回 あえて問題点にも目を向け、「自然派ワイン」の本質を問う~ワイン・オシャレ考~
環境や身体に優しい「自然派ワイン」、デメリットにも目を向けて本質を正しく知ろう
菜食主義者やナチュラリストならずとも、ビオワインやアンチ亜硫酸を求める声が高まっています。
大まかに自然派ワイン(ヴァン・ナチュール)と称されますが、どのように自然派なのかについての定義は一定ではなく、いわば混沌としているのが世界のワインの現状です。
最も一般的なのはEUの制度として規定されたオーガニック(有機)ワインです。
化学肥料、農薬を一切使用せず有機肥料で栽培されたブドウのみから醸造されるワインでラベルにユーロリーフのロゴが記載されます。
日本ワインでは、JAS法に基づく有機JASワインがそれに相当します。
しかしながら酸化防止剤とし亜硫酸の使用は認められています。
著名な作り手も多く取り組むビオディナミは少し変わっています。
ルドルフ・シュタイナー氏が提唱した農法で、有機栽培によるブドウを使用することの他、月の満ち欠けや呪術的な儀式を取り入れた一種カルト的な農法です。
酸化防止剤の使用は禁止されていません。
正式にはドイツのデメターという機関が認証します。
菜食主義に基づくヴィーガンワインというものもあります。
ワイン製造に係る全ての工程で動物由来の物質は使用しないという規定です。
ワインは清澄という澱を取り除く工程で動物由来の卵白やゼラチンを使用します。
ボルドー名産のカヌレは卵白を使用した残りの卵黄を有効活用した菓子です。
ヴィーガンワインは清澄剤を珪藻土で代用する等で条件を満たしています。
わかりやすいカテゴリーとして、酸化防止剤無添加ワインがあります。
亜硫酸を一切添加してないワインです。
しかしながら亜硫酸はワイン醸造の過程で生成される物質でもあり、たとえ添加してなくても製造由来で微量に含まれているとも考えられます。
最近注目されているオレンジワインも自然派に区分されます。
オレンジワインは基本的に、古代ジョージアでクヴェヴリと呼ばれる壺に白ブドウを皮ごと入れて自然酵母で発酵させた製法を再現しています。
皮から抽出した成分が酸化に強いために、亜硫酸の添加を無しもしくは最低限に抑えることができるために自然派と言われています。
白ブドウのワインですが、抽出された成分や酸化のためにオレンジや褐色のものもあり、オレンジワインの名前の由来となっています。
消費者が思い描く自然派のイメージとワインの規格にミスマッチが生じています。
自分たちが求めるビオワインの要件を明確にし、それを満たす規定の自然派ワインを選ぶ必要があります。
ワインの風味を守る酸化防止剤の是非を考える
ことワインの風味の観点からみると、特に果実味やフレッシュ感がトレンドとなっている現在、生産者はワイン作りのほぼ全ての工程において、常に酸化と戦っています。
酸化防止剤の添加を最小限に控えるために涼しい夜間に収穫したり、醸造タンク内を炭酸ガス(ドライアイス)で満たして嫌気処理するなどの方法もとられています。
そのうえで使用される微量の酸化防止剤に対する評価は、議論の分かれるところです。
例えば、新鮮なリンゴの皮を剝いて、ひとつは塩水を吹き付け、一方はそのまま放置します。
数時間すると塩水につけたリンゴは変化していませんが、そのままのリンゴは酸化して茶色く変色しています。
自然の果実に塩化ナトリウム(塩)という異物を添加して本来の自然の色彩を維持したリンゴか、完全無添加であるが酸化変色し劣化したリンゴのどちらを選ぶか。
現代のワイン問題にも通じる、正解の無い選択です。
確かに、今のワインには、美味しい、美しい以外のファクターXが求められる時代になったとも言えます。
今日もワインに関するよもやま話をしながら、月の港に続く道を歩むことにしましょう。
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MBA経営学修士でありアジア各地にて貿易事業を展開するビジネスパーソン。
WSET LEVEL 3 AWARD IN WINES、日本ソムリエ協会認定ワインエキスパート、J.S.Aワイン検定講師の資格を持ち、ワインをビジネスに活用する「ビズ・ワイン」を提唱。
著書に『「ビズ・ワイン」革命始まる』を持つ。